レビュー
『風立ちぬ』
「生きねば」、まさにそう思わせてくれる作品。戦争に突入する日本を舞台に、辛い時代を力強く生きた人々の姿を描いている。貧困、戦争、兵器開発…、暗く重たいテーマなのに、それらは全てメタファーに押し込まれており、爽やかで悲しい作品に仕上がっている。
主人公の生い立ちや日本の移り変わりなど、かなり複雑な話を駆け足で表現しているのだが、それがすんなりと入ってくるのは流石と言ったところ。
主人公は航空技師の堀越二郎。実在した人物だが、オリジナル要素が盛り込まれている。声優にはアニメーション監督の庵野秀明という異例の起用しているのだが、これがかえって激動の日本を俯瞰的に見ているような感覚を与えてくれている。尚、かなりのヘビースモーカーである様子が描かれており、喫煙描写を巡って論争が起きた。タイトルになっている「風立ちぬ」はの”ぬ”は、否定ではなく完了であり「風が立った」を意味している。「風立ちぬ いざ生きめやも」は元はフランスの詞の一節。英訳すると「The wind is rising: we must endeavor to live.」であり、邦訳は誤りとされている。作品でも本来の意味で使われているようで、「風が立った、さぁ私も行かなければ」という印象を持った。
さて映画だが、文字の世界ではなく映像の世界であるため、視覚表現がいかんとなく発揮されている。映像を通して人々の生活感をリアルに感じられる。また夢を用いた描写とストーリー展開が面白いので、ぜひ映像を見てほしい。
ぽにょに見られたポンポン船、火垂るの墓やコクリコ坂で見られた昔の日本、ナウシカや紅の豚で見られた戦闘機など、今までの作品で描かれたものの集大成に思える。宮崎駿の才能と世界観を再確認することができる。
子供の頃の憧れやひた向きな気持ちを素直に思い出させてくれる。自分の命は有限であり、出会いも有限であり、無駄にしてよいものじゃない。そう思わせてくれる作品。見終わった後には、自分の人生を振り返りたくなり、そして「生きねば」と思わせてくれる。